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ドイツ我楽多市
第2回 「おもちゃ博物館とパイプマン」- カレンダーを眺めながら 文:Prof. ツヴェルク
 
 昨年、ニュールンベルクの知人がエルツ山地のおもちゃの写真入りカレンダーを送ってくれた。各月ごとに幾つかの代表的な木造り人形のカラー写真が掲載されていて、その下にエルツ玩具博物館所蔵と断っている。おもちゃの博物館が日本にもどこかにあるのか、筆者はかぶん寡聞にして知らないのだが、ドイツではそんなに珍しくはない。例えば上記ニュールンベルクにもおもちゃ見本市が開かれるくらいだから無論立派なのがあるし、日本の観光客に一番人気の高いミュンヘンにも市の中心部にあり、またそのうちに観光案内をさせて頂く積もりでいる、名高い中世の町ローテンブルクでも観光の目玉である。ただそれらでは玩具全般が展示されているので、ザイフェンのようにその生産地の作品が主要展示物というのは珍しいのではないかと思う。この地は長く東ドイツに属していたから足を踏み入れがたかったが、東西の統一後は新しい観光地として、特に旧西ドイツの人たちにかなり人気が高いらしい。博物館は1993年に開館40年を祝ったというから、今年で丁度45年ということになる。

 さてこのカレンダーを眺めていると、動物や家畜の人形を大量に生産するザイフェン独特の方法として知られている 動物輪型(Tierenreifen)の工程が紹介されていながら、出来上がった作品の方には代表的なものが幾つか欠けていることに気がついた。先回、エルツ山地の、特に初期の生産品の特徴は生活に密着したもの、家畜とか森林、鉱山等に関係したものが多いと述べておいたが、動物輪型とはこの家畜や森の動物の彫り出しの際に、一匹ずつ彫るのではなく、タイヤのような格好の木の輪を作っておいて、その切断面が例えば牛の形になるようにしておくのである。まあ金時あめを作る時に、幾重にもくるんだ棒状のあめをまず作るが、その両端をタイヤ状に丸くくっつけたものと思えばよい。どこを切っても、牛の形をしているのである。これをろくろで作っておいて、後は適当な幅に切断して切り出したものに若干手を加えるだけだから、生産品の大量、安価な供給が可能となる。カレンダーの写真は、この輪と切り出したばかりの牛、それをちょうたく彫琢して色づけした牛と順番に並べてうつ撮している。博物館にはこの工程が展示されているのだろう。

 しかし、それでいて、、、と筆者は首をひねる。何故パイプマンが登場しないのか。筆者はこのタイプの人形を2個、別々に知人から贈り物として頂戴したのだが、どちらも夜警の格好をして長いパイプをくわえている。そして腰の部分で真っ二つに外せるようになっていて、上半身は中が空洞になっている。下半身の上部は丸テーブルのような形をしていて、そこに山型の香を載せて点火し、上半身を被せる。すると口のパイプから煙が流れ出て、辺りによい香りが漂うという仕掛けである。実は筆者はこの人形がお気に入りなのである。時々この人形を眺めながら香りをかぐと、不思議に落ち着き、ドイツを思い出し、 香のかおりと感傷は人を哲学者にする、などと愚にもつかぬたわごとを呟きながら、しばし感慨にふけ耽る。

  レンブラントの有名な絵の題にもあるように、かつてヨーロッパでは夜警は都市ではなじみのある存在だった。だから人形にもなったのだろう、というのがこれまでの筆者のいい加減な推定で、そのパイプとの結びつきはほとんど考えたことがなかった。ところが先回に紹介した「エルツ山地の玩具」を読んでいると、パイプマンの原型は頭にターバンを巻いたトルコ人だと書いてあって意表をつかれた。そこで想像してみると、なるほど長いトルコ・マントを着た姿と長い水パイプの組み合わせはぴったりである。そのパイプの先から煙が出るからである。しかし初期の形はまずローソク立てとなっていて、いきなり煙が出る仕掛けになったわけではなかったらしい。18世紀の末から19世紀にかけて、ヨーロッパにいわゆるオリエンタリズムの流行があり、色々な方面に影響を及ぼしたことが知られている。学問や芸術の種々な分野にも大きな影を投げかけるのだが、その一端にこのトルコ人人形の登場があることになる。つまり東洋の神秘的な雰囲気を漂わせるトルコ人を人形とする着想がまずあって、手にローソクを持つモチーフが比較的早く出来ていたのであろう。
  電灯のなかった時代にはローソクの明かりは非常に貴重なものだったに違いない。恐らくそういう実用的な意図から、ザイフェンのカレンダーに登場する天使だとか騎士だとかもローソク立てになっているものが多いのであろう。今でも薄闇にローソクをともしたがるドイツ人の多いのは、その時代の習慣の名残なのかどうか判らないが、ローソクとパイプの結びつきは火を介しているから容易に連想される。

  他方でクリスマスに香の薫りを漂わせるローソクを立てる風習がかなり以前からあったらしい。元来、容器に香を入れて煙りのかおりを楽しんだりしていたようである。1800年頃に出たニュールンベルクのおもちゃの見本書に、沈思黙考する一人の将軍の前に(恐らくナポレオン)赤く燃え上がるたき火の煙が立ち登るという図が描かれているそうである。19世紀に入って喫煙の風習が広まるにつれて、口にパイプをくわえた男の像が一般的になり始める。そこでエルツのおもちゃ造りたちは、ローソク用に内部をくりぬいた人形を考案するのである。煙が丸い口から輪を描いて出てくるように。だからこの系列とトルコ人形との結びつきは割合に早かったらしい。その際ローソク立てが自然に落ちたのだろう。その後このパイプマンのヴァリエーションがかなりの数作られ、その中で人気のあるのが夜警ということらしい。このようにたど辿ってみると、トルコ人の人形にも時代の傾向がくっきりと映し出されているのだから、夜警の登場という現象からも都市の変化や発展の跡が読みとれるかも知れないと思えて来た。またそのうちに調べてみたい。
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