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ドイツ我楽多市
第4回 「ドールハウス」  文:Prof. ツヴェルク
 
 近年、各地方に村興しの事業が盛んで、それに様々な目的の博物館が含まれていることが多いのは嬉しい。ただこの点では、元来地方文化が栄えて、現在でも中央一極化への傾向の弱いドイツが先進国である。今筆者の手許にある或る地方の博物館パンフレットにチラッと目を通してみるだけでも、古い城とか教会だけでなく、郷土博物館を初めとしてじょうさい城塞博物館、森林博物館、中世刑罰博物館、印章博物館、消火器博物館とか指ぬき博物館など珍しいものまでおびただ夥しくあって、ドイツ人は歴史と整理の好きな民族だなと思わせる。
 数年前にこういう博物館が成立する時の苦労を描いた、S.レンツという現代作家の小説「郷土博物館」を読んだことがある。この中に館員が郷土特有の玩具を手に入れるために田舎に出かける箇所があって、幾つかおもちゃの名が挙げられ、時にはどういう形をしているのか、想像のつかないこともあるが、比較的よく登場したのがドイツ語ではPuppenhausといわれるドールハウスである。それで筆者も幾つか訪れた郷土博物館にほとんど必ず展示されている緻密な細工を思い出した。つまり昔おもちゃであったものが、今では単なる民芸品と言うよりは、芸術品として飾られているのである。
ただ本来こういう手の込んだ高級なおもちゃは、17,8世紀の王宮とか貴族の子供たちの対象だったらしい。日本のお雛様もそうだつたのではないのだろうか。庶民には恐らく手の届かないものだったのである。そしてどうも19世紀の市民時代になってから、ようやく一般に少しずつ普及していったらしい。しかしそれでもまだ高級だったから、お雛様と同様に、代々の女系に受け継がれたハウスもあると聞いたことがある。
 筆者が見たドールハウスで印象深かったのは、ニュールンベルクのゲルマニア博物館で見たものである。この博物館は創立以来150年近く経つ、ドイツでも最大規模の一つで、紀元前からの道具や歴史的資料に始まって、絵画、彫刻等珍しいものが色々あったが、忘れ難く脳裏に刻み込まれているものの一つがこのハウスである。ニュールンベルク1639年と解説書にあるから、細かい細工物で有名だった当地で作られたものであろう。目測だから余り当てにはならないが、60センチか70センチぐらいの高さがあったと思う。ちなみに近年、日本の玩具屋でもプラスチックのドールハウスが売られているが、これが上から眺めるように作られているのに対し、ヨーロッパのは、一般に真横から見る構造になっているという違いがある。つまりヨウカンのように縦に切ってあって、この博物館のハウスの場合は、正確には4階建てと言うべきなのだろうが、1階と2階は少々天井が低いから、3階建てのような印象を与える。
 こういう玩具は無論おもちゃとして、現在でも人気があるわけだが、古いものは、そこから歴史を読みとる対象としても興味深い。例えば、ここでは一番下の階には牛と馬が数頭繋がれているし、その隣の小部屋には樽が幾つか転がっている。これが当時の市民の家だとすると、相当裕福だったのではないか。というのが、その樽の部屋のすぐ上に、召使いの部屋らしきものが見えるからである。もしこのハウスが子供の遊具だとしたら、最も興味を惹くのは台所であろう。ここにはまさに精緻の極みというべき細かい台所用品が壁に掛けられ、見る者の賛嘆を誘う。筆者の興味を惹くのは寝室である。というのが現在のように広い空間にベッドがポツンと置かれているというのではなく、部屋の一隅にカーテンで囲いがしてあるからである、ヨーロッパの城を見物すると、広い寝室にまたカーテンで仕切りがしてあって、その中にベッドが置かれているのをよく見かけるが、それと同じ方式である。当時はみなそうしていたらしい。そしてその横にタイル張りの暖炉用ストーヴ(Kachelofen)が置かれているのも、うなづける。というのがこれはもう博物館でしかお目にかかれない暖房器具だが、筆者はかつて東ドイツの知人の部屋で見たことがある。それとフランクフルトのゲーテの生誕の家で。
 これほど立派ではないが、他の博物館でも何度かドールハウスを見せられた筆者は、帰国したら娘のために作ってやりたいと思った。だが残念ながら生来の怠惰癖が災いして、そのままになってしまった。しかし気持ちだけは残っていたから、その後ドイツのおもちゃ屋に行く機会があった時、
 しんちゅう真鍮の鍋とかコーヒーミルなどを買っておいた。少しずつ自分で買い集めるようになっているのである。これが結構高くて、例えば直径2.7センチの蓋付き真鍮鍋が25マルク、即ち約1700円もするのであるから、子供たちは小使いを貯めて、少しずつ買うしかないのであろう。だがそんなことをしているうちに孫娘が生まれてしまったので、これ以上延期は出来ぬと思い、まず手始めに簡単なものを念頭に描いて作り始めた。ところが、たちまちカッターナイフで指を切ってしまい、3針も縫う始末となった。それでもその後頑張って、何とか完成。しかし以来本来の構想のものはまだ作れずにいる。無論まだ日本では見たことすらない規模のものの筈なのだが。
 ところで最近、近所のスーパーで、この種の小さな台所用品が沢山はるかに安価に売られているのを発見して驚いた。ドイツ製なら高いはずだから、ひょっとすると中国製ぐらいだろうか。それにしてもよく似ている。

ツヴェルク=小人
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