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ドイツ我楽多市
第19回 小匙と絵皿など - ささやかな旅の土産  文:Prof. ツヴェルク
 
 ヨーロッパの旅行中に、外国の流行や風習の輸入に目賢(めざと)い日本の業者が何故取り入れないのか、不思議に思う発見をすることがある。例えば絵葉書のバラ売りがその一つである。どういうわけか、日本の観光地では絵葉書は5,6枚のセットでしか売っていない。モチーフや絵図によって売れ行きに差が出るのを恐れるのか。それなら売れるものを沢山売れば、売れないものを補うからよいのではないかと思うのだが。今のところ客の方が欲しくもない図柄まで買わされる羽目になって、しかも種類は非常に少ないのが通常である。一般にヨーロッパでは土産物店の軒先に大きく、沢山の種類が展示してあって、好みのものを好みの数だけ買うことが出来るようになっている。セット販売なんぞ見たことがない。日本で外国人によく不審気にぼやかれる事柄の一つである。
 その土地の名産品を売っているのは洋の東西を問わないが、日本の「...饅頭」にはうんざりする。しかしともかく売れるから売るのであろう。かつて島根県の美保関(みほのせき)に巨大隕石が落ちたことがあって評判になると、早速「隕石饅頭」が売り出されたが、これが本当に固かったのは面白かった。しかしこういう特徴的なのは数少ない例外でしかない。ドイツではこの饅頭に類する土産はない。勿論、京都の八つ橋とか高松の讃岐うどんのような本当の名物に相当するものは存在する。前にその由来とともに挙げたことのあるニュールンベルクのレープクーヘンとか、リューベックのマルチパーンとかは、全国的に有名な菓子である。(バウムクーヘンがドイツでは余り知られていないことは前に述べたことがある)しかし一般に食べ物、甘いものの土産品は少ないようだ。

 その代わりどこに行っても目につくものが幾つかあって、銀メッキの小匙(さじ)とか小型の絵皿、ガラスコップ等である。スプーンは柄の先が大体直径1センチ5ミリぐらいに丸くなっている、いわゆる飾りスプーンだが、そこに大抵は土地の観光の目玉になるものが陶器にカラーで焼き付けられている。ザルツブルクとかテュービンゲンのように城を中心に発達した町では城の図柄が、ウィーンとかケルンのようにドームで有名な町では、教会が様式化された図柄で描かれていることが多い。メッキでなく本物の銀製もあり、長さは必ずしも統一されていないが、大体10センチ前後である。
 この小型のスプーンは本来キャビアを食べるときに使用されるものらしいが、どこかのホテルで朝食の半熟卵用に添えられていたので、我が家でもそれに使っている。もっともそれで銀が黒くなりやすいから注意が肝要。無論コーヒーにも、特にドゥミのカップで飲むときにはぴったりであろう。
<画像:スプーンの柄>

ミュンヘンのスプーンには、この町が元来、修道院の所在地であることから発生したので、小僧が描かれている。つまり小僧の意のメンヒ(Mönch)に地名
(München)が由来している。これを手軽な土産として贈ったり、コーヒーに添えて出すと、日本では見慣れない模様だから、そこから話が広がったりする。
こういうささやかな、そこを訪れたことを思い出させるだけで、どこでも変わりばえしないものでありながら、幾つ所持してもよい記念品としての土産品が、日本には少ないような気がする。強いていえばキイホルダーだろうが、これとて沢山は不要だからどうだろう。
 同様な土産品が絵皿である。大きいものもあるが、大体小さな田舎町に行っても売られているのが10センチぐらいの直径である。これに図柄がモチーフとしてはスプーンの場合と似たりよったりとはいえ、はるかに大きいだけ写実的に印刷されている。カラーの場合もないわけではないが、白黒が多いから、銅版画のような雰囲気があって、壁に懸けてもサマになる。勿論、実用品としても使えるし、スプーンよりも安価だから、便利な土産であるが、焼き物だから若干重たくなるのが欠点と言える。
<画像:メンヒ>

 そこで 筆者は訪れた町の記念としては大抵スプーンにして、時たまこの絵皿を買う方針にしていたが、やはりいつの間にか 結構溜ってしまった。その図柄を今調べてみたら、例えばニュールンベルクでは、市の立つ広場の名物である「美徳の泉」が、フラウエン・キルヘと呼ばれる市の象徴的なゴシック様式の教会を背景として描かれていた。シュヴァーベンというドイツ南西部の地方の中心都市であるシュトットガルトの皿には、17世紀バロック様式の堂々たるシュロッス館が模様になっている。それを見ているだけで色々と思い出すから、絵葉書の代役も果たしているわけだ。だがウィーンで買った皿には、ハープスブルク家の紋章がカラーで画かれている。いわゆる双頭の鷲の図だが、こんな風にヨーロッパの町は、みなそれぞれ紋章を持っているから、それが模様になっていることもある。
<画像:ニュルンベルクの皿>
 ベルリンの皿はもう30年ぐらい前に買ったものだから当然、時代状況の反映があって、東西ベルリンを分ける象徴的な存在としてよく登場したブランデンブルク門が描かれている。スプーンの図も同じ門だった。しかし別なスプーンには、市の紋章である熊が描かれているから、平和な時代だったら、この模様なのだろう、と胸が痛んだ覚えがある。ベルリンとは小熊の意にも解せるので、そういう紋章になっている。現在はどういう図柄になっているのだろう。今度訪ねる時の楽しみである。
<画像:ハープスブルク家の紋章>
日本で何故この手の土産品が店頭に置かれないのか、解らない。ヨーロッパとは食生活の異なる環境を懸念して、売れないものと予想しているのか。筆者の或る日本の知人は、ドイツ旅行の記念の宝物と称して、このスプーンのコレクションを大事に保管している。そういうケースも結構あるのではないかと思われるのだが。やはり饅頭で充分なのであろうか。
<画像:ベルリンの皿(ブランデンブルク門)>
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