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ドイツ我楽多市
第20回 人形芝居 ― プラハで  文:Prof. ツヴェルク
 
  テレビで時々人形劇をやっている。孫娘が一生懸命に見ているのに気がついて、こちらも見ると面白いし、よく出来ているなと感心する。それでいて何か物足りない感じがするので、考えていると、昔ヨーロッパで見た人形劇の実演を思い出した。何回かあるのだが、そのうちでもチェコのプラハで見たマリオネット、即ち操り人形芝居が特に濃い記憶となって残っている。というのが、この年末をプラハで過ごすようになった1968年には、有名な「プラハの春」が暴力的に結末をつけられるという事件があったばかりだったからである。つまり当時のドゥプチェク首相の急激な民主化政策を阻止するために、ソ連の戦車がなりふりかまわず国境を越えて侵入して来て威嚇、発砲し、それに対する抵抗運動があって、犠牲者がでた。年末になっても、まだその傷跡が至る所に生々しく見えていて、市内の空気はどこに行っても重々しく、ピリピリと張りつめている感じだった。その中でただ人形劇場の子供たちの屈託のない笑い声だけが救いのように響いて、非常に印象深かったのである。
 白状すると実はその時、本当は当時チェコの国民芸術として知られていたラテルナ・マジカを見る筈だった。これは案内書には演劇と映画とバレエを独特な方法でミックスした視覚的・聴覚的効果の総合芸術と書いてあって、期待して行ったのにかかわらず、休みだったのである。そして後に大阪の万博で見たのだが、予想より詰まらなかったから、偶然、人形芝居を選ぶことになったのは幸運だったわけだ。

  プラハの案内書には市内に4軒の人形劇場があると載っていたのにまず驚いた。当時まだテレビが余り普及していなかったことと関係があるかも知れない。今はどうなっているのだろう。ドイツでは依然として、というより、むしろ昔よりも人気があるように見えるのだが。それはともかく、その時詳細は判らず、一番近くの劇場を選んだのではなかったか。入ってみると50ぐらいの席があって、もうかなり詰まっている感じだった。ガイドの太ったおばさんに案内されて、筆者たち3人が通路を行くと、一瞬子供たちのざわめきがあって、また静かになったのを思い出す。開演まで見渡した限りでは、ほとんど皆親子連れだったようだ。舞台は想像していたよりも大きくて、横2メートル,縦50センチぐらいではなかったろうか。紙芝居のように枠があるのかと思っていたら、ただ背景の布が上記のような大きさで張られていただけで、人形がその前で演技をするのである。だから人形そのものも思ったより大きくて、30センチぐらいの高さはあったような気がする。
チェコ語は挨拶程度しか知らなかったので、芝居の筋は人形の身振りから想像するしかなかったのだが、どうも短い作品が幾つも続けて上演されていたらしかった。動きが速いのに驚かされた。それに動作が非常にオーバーで、例えば一方が軽く手を伸ばして頭を突くと、突かれた方はピョンと彼方へすっ飛んでいってしまう。筆者は文楽をテレビでしか見たことがないのだが、どうもこれとは正反対の動きではないかと思う。子供たちはこういう動きの度にゲラゲラと楽しそうに笑うのだが、動作の滑稽さに笑っているのか、その時のセリフに反応して笑っているのか、判らなかったのは残念だった。時々人形が子供たちに話しかけると、子供たちが一斉にアノー(Yes)とかネー(No)と嬉しそうに答えていたのが鮮明に記憶に残っている。

上演の合間に、案内のおばさんが手招きするのでついて行くと、楽屋裏を見せてくれた。実はその時の写真を見ながら今書いているのだが、白黒とカラーと両方で撮ったのに、どちらも折悪(おりあ)しく丁度フラッシュが壊れた時だったので、ぼけた写真が多いのにうんざりしている。ただそれを見ているとぼんやり思い出すのは、人形の紐を操るのは直接指ではなくて、その紐につながれた20センチほどの横木なのだということだ。一人の操り師がその横木をほんのちょつと動かすと、人形の首や手足が本当の人間のように動く。どういう風になっているのか、一同感嘆しきりだった。最近この仕掛けの簡単なもので操作される輸入品の人形が岡山でも売られていることを知った。これと同じかどうかは知らない。
<画像:舞台横から見た図>

 人形はグリムのこびとのように三角帽を被った老人や、民族衣装を着た女性も動物もあったが、どうも人気者らしく何度も登場したのはちょっと奇妙な風貌の父と息子のぺアーだった。この父子の小型の人形が土産物屋でも売られていたので一組買ってきたが、筆者は彼らが一体何者なのか、名前すら知らない。ひょっとするとドイツのカスパール、イタリアのプルチネルラのような、伝統的に人気のある滑稽役なのかとも思えるが、まだ確かめるチャンスがない。
テレビの人形劇がよく出来ているのに、筆者が物足りない思いをしたのは、恐らく観客の子供たちの反応が上演者に伝わらないことに起因している。人形劇場では、子供たちの反応に応じて、また人形が反応するのである。元来、子供が約一時間半にも亘(わた)る芝居をじっと見ている筈がない。感情移入して人形と一緒に観客席で身体を動かし、足を踏みならし、叫ぶのである。すると人形もまたそれに応えて頭を動かしたり、手を振ったり、叫び返したりする。そうやって両者で舞台が作り上げられて行く。テレビの人形劇を見ながら手足を振り回す孫娘を見ていると、この想い出が蘇り、子供にはやはり実演が一番よいのだが、とつくづく思う。

 ちなみに4、5年前の或るマリオネット劇場の上演予定表が手許にある。南ドイツのシュヴェービッシュ・ハルという有名な観光地の劇場で、4月から多少の増減はあるが、大体月10回平均で6月まで、夏は休憩して10月末に再開、12月まで上演される。「勇敢な仕立て屋」とか「白雪姫」等と比較的グリムが多いようだが、「長靴を履いた雄猫」とか「コウノトリになったカリフ」などホフマンとかハウフの原作もある。他の劇場も同じようではないかと想像される。
<画像:マリオネット劇場の上演予定表>
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