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ドイツ我楽多市
第24回 プラム小人余談  文:Prof. ツヴェルク
 
 昨年のクリスマスにニュールンベルクの知人からちょっと変ったプラム小人が送られて来た。プラム小人については、前に同市の玩具市の紹介の際に若干触れたことがある。だが贈られて来た人形を眺めていると、幾つかの思い出が懐かしく脳裏によみがえってきて、少しばかり書いてみる気になった。
プラムを初めて見たのは数十年の昔、北ドイツを旅行している時だった。この木の実に当るPflaumeというドイツ語は、小説などで知っていたが、辞書にはスモモとなっていたから、大分違うようだと感じたことを思い出す。日本にはまだ輸入されていなかった頃で、実物を知らなかったのである。ところが暫くして南ドイツのヴュルツブルクという町の朝市で、どうも同じものらしい木の実がZwetschgeという名札をつけて売られているのを見つけた。それ以来、この両者は同じものだという認識が筆者の頭の中に出来上がったのだが、実はこれが少々性急な結論だったようだ。

画像:ヴュルツブルクのマルクト(朝市)

 というのが、それからほぼ10年後ぐらいの秋にボンの知人を訪ねたことがある。当時はまだ西ドイツの首都だったこの田舎町は、ドイツ全体からすると西部だが、南北からすると大体真ん中ぐらいに位置するだろうか。テーブルの上にあった木の実を何気なくPflaumeと言うと、知人のドイツ人は、「違う、Zwetschgeだ。」と否定したのである。その後、近郊の畠の中なんぞにポツンと建っている古い教会や城などをフォルクス・ヴァーゲンで案内してくれたのだが、その際殊更その違いを直接認識させるためだったのか、あぜ道の畔のような所にプラムの樹が立っているとその度に、わざわざ車を停めて、実をちぎってはZwetschgeだと断って、我々に食べさせる。次から次へと喰わされて、筆者も家内も後で腹がおかしくなったのではなかったかと思う。
その年の終り、ヴュルツブルクでクリスマスが近づいた頃、この実で作られた人形が町に沢山売りに出されていたので、筆者も一つ買った。やはりこの祭りに飾る風習があるのだという。頭だけ胡桃で、後の身体の部分は針金に干したプラムを通して作った素朴な人形である。その際、これは食べられるかと売り子のオバサンに尋ねると、面白くもないといった顔つきで「誰も食べない。」と無愛想に答えが返ってきたのを覚えている。そこでその頃幼かった好奇心の強い下の息子が欲しがったらどうしょうか、と考えたりした。この人形はむろん玩具市でも沢山売りに出される。クリスマスとこの人形との関係については前にお話したのだが、多分もうご記憶ではないと思うので、再度記しておこう。

画像:Zwetschgeを勧められる家内

 ニュールンベルクの市門の塔に住む独り者の針金細工師が、針金作りで辛うじてパンとスープを得られるだけで、とてもワインを買う余裕はなかった。そこで門のそばの堀のほとりに咲くプラムの樹の実を採って自分で醸造し、残ったプラムは屋根裏に干しておいた。ある日彼は病気になり、死にかけていた。丁度アトヴェントの期間だった。そこへ近所の子供たちの神を讃える歌声が聞こえて来た。これを聞いた彼は非常に楽しい気分になり、病気が直ってしまった。そこで子供たちへの感謝の印として作ったのがこの干しプラムと胡桃を材料にして作った人形である。
そういうわけで、この人形もニュールンベルクの玩具市を構成する大事な要員である。
わしは独り者じゃから
べっぴんのプラムこびとの娘を買うて来た。
今わしのナイトテーブルの上に立って、
わしににっこり微笑んどるわい。
原文はフランケン地方(ニュールンベルクの一帯)の強い訛りで書かれているこの歌詞にもあるように、この時期にはテーブルだとか本棚とか至る所に飾られる。だが記録によると、出現したのはそれほど古くはなく、19世紀の初めだというから、ようやく200年足らずだということになる。そして先ほどの売り子の言葉とは違って、当時はクリスマスに貧者に分け与えられる食べ物と見なされていたのだという。お菓子の人形というところか。またフランケン地方と北ドイツにほとんど同時に出現したらしい。そして北ドイツではプラム野郎(Pflaumenkerl)と呼ばれ、フランケン地方では、ツヴェッチュゲンちび男(Zwetschgenmannla)と呼ばれるようになったのだとか。

画像:プラム人形

 だがボンの知人のやけにきっぱりとした言葉が、どうも気になる。そこでドイツ語の方言解説書で調べてみたら、やはり本来は同じものらしい。しかし形が南の方は長円で、北では丸く、成熟の時期が前者は8月で、後者は9月となっていて、違うといえば違う。「なんきん」「かぼちゃ」「とうなす」よりは差が大きいようだ。だが柿の場合でも長円、まん丸、小型なんぞ色々あるけれど、みんな柿だから、そんなに差が強調されなければならないものだろうか。バイエルンには、自分たちは北ドイツの人とは人種が違うと広言する人が珍しくないが、これもその類か。 ところで冒頭にちょっと変った人形だと書いたのは、今回送られて来た人形にはプラムは僅かに胴体の辺りしか使われていなくて、ほとんど干しぶどうから出来ているからである。また頭部も胡桃ではなくて、ドングリである。更に一人ではなく、男女のペアーである。そこで玩具市の解説書を見たら、男は一人の時はシルクハットを被った煙突掃除夫だが、ペアーの時は日傘と買い物籠を抱えた農婦が加わると書いてある。ただし何故かとは書いていない。ちなみにドイツでは煙突掃除夫に出会うと、その日はよいことがあるという言い伝えがあることを付け加えておこう。

画像:ペアーのプラム人形
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